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昼食を終えセントラル公園に戻る道すがら、エネルギーを補給したとは思えぬほどの
青白いの顔でレンはヨタヨタと歩いている。結局あの後音戯が参戦しほどなくして
メイコと荒々木も合流し何とか皿をきれいにし清掃局のメンツを保った。
ヨタヨタと歩くレンを横に音戯が表情無くで歩いている、が昼食前に比べお腹がぽっこり膨らみよくよく見れば顔も若干白んでいる。
「大丈夫か、腹が減って今にも倒れそうな顔に見えんぞ」
「ご冗談を・・・うっ!!!」レンは口を抑え・・・・・・飲み込む。
音戯はそれを見てもらいそうになるのを必死に抑える、さすがに多少顔が崩れている。
「喋らせないで・・・ください」
「あぁ・・・すまんな」
そのまま無言で公園へ戻り互いの持ち場で少し休んで午後の仕事を開始する。
レンは木々の調子をチェックしつつ元気の無い者には栄養剤を与える、栄養剤を取る為に屈み、栄養剤を与えるために背伸びをする、どちらの動きも腹を圧迫しその度に頬を膨らませる。
「あぁーぁ気持ち悪い」
清掃局の人間が公園を汚すような事をしてはいけないという使命感と逆に肥料になるのではないかという逆転の発想を戦わせながら長く感じる午後の仕事をこなしていった。ほどなく5時になり吐く事も無く本日の終業時間になる
気がつけば葉の影からキラキラと光を送っていた太陽も西に傾き木々のシルエットの向こうはオレンジ色に染まっていた。
公園入口には仕事を終えた多数の局員が多目的端末で終業確認を行っている。
その端末の混雑を横に近くのコンテナに寄り掛かって音戯が立っている。
「お疲れ様です」
「ああ」
レンの声に無表情に答える音戯、普通ならここで昼食の話で一盛り上がりする所だろうが音戯が積極的に話を振ってくる事自体そう多くないのとレンも思い出したくないから口を閉じた。
やがて人もまばらになり二人も終業確認、管理者としての手続きも終え帰路についた。
Big City最大建造物その建物内にあるセントラルタワーステーションは朝とこの時間
異常なほどの人でごった返す、朝とすこし違うのは皆若干テンションが高めな事だ、
これから家に帰るまで何か楽しい事があるのだろう。
レンは駅構内で音戯と別れ特急太極線のホームへ向かう、レンも音戯も互いがこの後
どうするのか聞いたことが無い他人に興味が無いという点で二人は似た物同士なのだろう、そういう関係が今のレンにとっては理想の人付き合いなのである。
ほとんどの者は太極線ホームへの通路が見えていないかのように各駅うずまき線のホームへ流れていく、レンはその流から外れ太極線のホームへと続く通路を進む
特急太極線のホームは先程までの人密度からは想像できないほど閑散としている。
太極線は各区の境目の駅と東西南北の大型ターミナルへ陽陰二線が運行している
朝同様うずまき線で帰ったほうが家に近い駅で降りられるが家に着く時間的にはさほど変わらないのと人ごみを避けるため太極線で帰宅している。
ホームで20分ほど待って入ってきた電車に乗り込む。
朝とは逆に座れなかった事が無いガランとした車内でレンは窓の外の高層ビル群をボンヤリ眺めた。
セントラルタワーの中腹から滑るように橋脚の上を走る電車を夜見れば空を飛んでいるように見える、電車はあっという間にスピードを上げ中枢区を駆けて行く。
電車はあっという間に中枢区を後にし商業区に差し掛かる、カクテルカラーの電飾、様々な看板が宙に浮かぶ、歓楽街は今日も祭りのように賑わっている。
商業区はドーナツ状に広がる多種多様な店がひしめく商いの区、Big Cityができる前、世界に点在していた12集落の特色が色濃く出ている1番町から12番町で形成されている。
ハメを外してはしゃいでいる人々を電車の中から眺めながら明日は自分もあの中にいるのだろうかとレンは思った。
東泉駅、Big Cityの四方にある大型ステーションの1つセントラルと違うのはスペースポートがある点だが未だ他の惑星に行ける訳でもなく近宇宙を散歩がてら飛ぶ程度の物で開港時には賑わっていたが今ではすっかり寂れてしまっている。
駅に着いたレンは家に向かって歩きだす。家までは10分ほど、商業区とは打って変わって足音が響くぐらいに静かな住宅街をレンは母親が作っているであろう夕食をどう回避しようかと考えながら新月の空の下トボトボと歩いた。
レンの家はごく普通の二階一戸建、父、母、レンの三人で住んでいる、姉が一人いるが仕事上の理由で家を出ている。
家に入るとおいしそうな匂いが鼻腔をくすぐる、しかし今のレンには胃と食道を刺激するリバーススイッチに他ならない、口を抑えながらリビングを横切る、キッチンでは母・トモエが夕飯の準備に精を出している、レンは夕食の回避方法をまだ決めあぐねていたが先に風呂に入り湯船につかりながら母を傷つけず自然に夕飯を断れる奇跡の一言を捻り出そうと計画していた、母に対してもこんな自分を鑑みてやはり人間関係は煩わしいとつくづく思った。
「・・・ただいま」
トモエは大鍋をグルグル回す手を止め2児の母とは思えぬ笑顔を見せる。
「お帰りなさい」大鍋の火を弱火にするとでかい刺身包丁を手にし魚をさばきにかかる。
「もうちょっとまってね、すぐ用意するから」魚の頭をストンと落としながらも笑顔を崩さない。
「えっ!あー先にお風呂に入ろうかな」
「そう、じゃあ上がるまでに用意しとくわね」
「あっ!いやきっ今日はお昼遅めだったから・・・いいかな」
早口だったが咄嗟に出たにしては上出来な一言、レンは母の顔色を窺う
トモエは包丁を魚の腹に刺したまま停止している、長い髪のせいで表情を窺う事ができない。
大鍋のポコポコという音だけが響く
・ ・・・・・・・
「す・・・スープだけ貰おうかな」
「そう、わかったお風呂入っておいで」
2児の母とは思えぬ瑞々しい笑顔で包丁をスライドさせて行く。
じっとりと汗をかいたレンは風呂前に言っておいてよかったと思いながら湯船に身を沈めた。
風呂から上がるとテーブルには家で一番大きな器に波々と野菜スープが注がれている。
レンは一瞬お風呂かなとモクモク上がる湯気を見ながら錯覚をおぼえる。
「冷めない内に飲みなさい」背後から声がする。
レンは後ろを振り向けず無言でテーブルについて目の前の大海を見据えた。
スープはうまい、が、うまいからといって胃の許容量が変わるわけでもなくゆっくりゆっくりスープをすする。前方では母・トモエも食事をしているが湯気でほぼ見えない。
スープを見飽きたレンは気を紛らわせようとテレビに目を移す、真面目そうな女性キャスターが今日の出来事を伝えている。
「・・・のピエロによる紙芝居は商業区の各広場で不定期に行われているようです。
続いての話題は本日商業区三番町広場で行われている愛しの人に愛を叫ぼうコンテストです。会場には生田さんに行ってもらってます、生田さーん」
「はい、こちらの現場はカップルだらけで私共男だらけスタッフは浮いているんじゃないかと悲しくなるんですが元気にインタビューしてみようと思います」
「すいませーん、少しよろしいですか」
カメラを横切ろうとした女性を呼びとめレポーターがマイクを向ける。
「あっ!?」
マイクを向けられた女性は完全な八の字眉のへの字口、今にも噛み付いてきそうなそれにレポーター生田は負けじと食い下がる。
「あなたが愛を叫びたい、もしくは叫ばれたい相手は誰ですか?」
女性は眉間にしわを寄せレポーターのネクタイを引き寄せ
「そんなのそこいらのカップルに聞けや!こっちはドタキャンされてんだよこのボケ!!」
掴んでいるネクタイを激しく押し引きし押した所で離し蹴りを見舞う派手に来場者の群れにレポーターを吹き飛ばしターゲットを変える。
「てめぇ!何撮ってんだよっ!オラっ!オラっ」
カメラマンのボディーに拳を浴びせる、グラグラ揺れるテレビ画面を見て口元を押さえるレン、なおも画面は激しく揺れ倒れたのであろうカメラマンは綺麗な星空を写す、
画面外では近くで怒号遠くでは愛が叫ばれていた。
「・・・・はいっ・・えー天文台によりますとこの季節南東の夜空に流れ星を見る事ができるという事です綺麗な夜空を見ながら願い事をするのも・・・・
「ただいま」
スタジオのキャスターがうまいことフォローしているのをレンとトモエが呆然と見ていると何時の間にか父・タケルが帰宅していた。
レンの父はオールバックの髪に褐色の肌、立派なガタイでビシッとスーツを着こなしているレンの父にはよほど見えないこの男は建設局局長、清掃局を含む中枢五局の中で最大人数を誇る建設局のトップである。
「ふーっ今日も働いたー」ドカリと椅子に座りネクタイを緩める。
「局長なんだから現場になんか出なくてもいいじゃないの」
「指示出しだけじゃ息が詰まるからなぁ、お前こっちに移動してこいよぉ、足んねぇんだよ人が」
タケルは半ばキレぎみに愚痴る、現在Big Cityは100周年を目前に改修、建替えラッシュとなっており建設局員は昼夜とわずフル稼働中なのである。
「やだよ建築に興味無いし、ポコポコポコポコビル建てて、建設局も木の一本でも植えればいいのに」
「親父の仕事になんつー言い草、しかしお前・・・」
「?」
「えらい偏った夕食だな」
「・・・・・・」
二人のやり取りをトモエはタケルの食事の用意をしながらニコニコと見つめていた。
食事を終え汗だくになった為再度風呂に入り自室に入る頃には七時半を過ぎていた。
レンの部屋は机と本棚そしてベッドとかなりシンプルな趣である、そんな部屋の中で唯一賑わっている本棚は植物関係の図鑑で埋め尽くされている。
レンは寝るまで唯一の趣味であるその植物図鑑を読みふける、植物の手入れの次に幸せな時間である。
多数の本から一際年季の入った本を取りベッドに横たわり本を開く、その本はレンが幼少時代に初めて買ってもらった植物図鑑、簡素な図に細かな文字がビッシリと敷き詰められている子供が読むような本では無いであろう当時大きかったその本をやっぱり大きいなと思いながらめくる。
最初の一文を読んだだけで内容を思い出してしまうそれをぼんやり見つめながら頭では別のことを考えていた。最近この本を読んでいると同じ事が頭を巡る。
レンの夢は花屋になる事そのための貯金もしている、がその長年の夢を手に入れた先に次の夢はあるのか、それとも止まってしまうのかそんな事をグルグル考え答えを出さずに本を閉じる、明日も公園の植物の手入れをする今はそれでいいと思っている。
窓の外南東の夜空を見上げると赤い星が尾をひいて流れていく、レンは願い事をする気にはなれずそのまま流れ星を見送った。
α襲来まで・・・のこり十三時間